みなさん、宇宙望遠鏡をご存知ですか?
望遠鏡と言ったら、空気が奇麗な山などの高台に持ち出して、夜空をのぞき込む、って感じのイメージですよね。
確かに、宇宙航空技術が発展する以前は、ガリレオ・ガリレイが発明したガリレオ望遠鏡を初めとして、望遠鏡は”地上”で活躍してきました。
しかし、「もっと遠くを、もっと様々な宇宙の姿を見てみたい」という一心で人類は望遠鏡を進化させ、ついには”宇宙”で活躍する宇宙望遠鏡が生み出されました。
近年の宇宙科学の急激な発展は、この宇宙望遠鏡の活躍なしには語れません。
そこで今回は、数ある宇宙望遠鏡の中でも特に宇宙科学分野への貢献度が高いと言われている『ハッブル宇宙望遠鏡』について紹介していこうと思います。
ハッブル宇宙望遠鏡とは
ハッブル宇宙望遠鏡とは、地球上空の約 600 km を軌道周回している宇宙望遠鏡です。
名前の由来は、宇宙の膨張を発見したアメリカの天文学者エドウィン・ハッブルです。
長さ13.1メートル、重さ11トンと地上の光学望遠鏡とは比べ物にならないくらいほど大きな望遠鏡でもあります。
バスくらいのサイズと言えばイメージしやすいでしょうか。
望遠鏡の精度を決める上で特に重要な主鏡の直径は2.4メートルにもなり、何億光年も先の星の光を捉えることができます。
ハッブル宇宙望遠鏡は、NASAの「グレートオブザバトリー計画」という4基の宇宙望遠鏡を宇宙に送り込むプロジェクトの一環で、1990年に打ち上げられました。
そもそも、なぜ望遠鏡を宇宙に打ち上げるのかというと、「雲」や「塵」、「湿度」、「大気の揺らぎ」、「地上の光」などの影響を避けるためです。
これらの要素は、宇宙から届く光に干渉し弱めてしまうため、ハッブル宇宙望遠鏡のように「可視光」を捉える望遠鏡にとって大敵です。
なので地上の天文台が、「晴天率が高く」「湿度が低く」「空気が澄んでいて」「夜空が暗い」という条件を満たす”山の上”に建設されることが多いのはこのためです。
”宇宙”ともなれば、天候や大気、人工の光などの影響を全く受けることがないので、望遠鏡による天体観測の場としてはベストと言えるでしょう。
実際に、ハッブル宇宙望遠鏡は、それまで見ることのできなかった暗い星を捉え、すでに知られていた天体も、よりハッキリと観測することができました。
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ハッブル宇宙望遠鏡の軌跡
ハッブル宇宙望遠鏡は、1990年に打ち上げられて以来、数々の功績を残すと同時に、様々な苦難に直面することにもなりました。
しかし、ハッブル宇宙望遠鏡がトラブルに見舞われる度に、人類は成長し苦境をを乗り越えてきました。
ハッブル宇宙望遠鏡は、宇宙科学分野の功績だけでなく、人類の心に「決して諦めないことの大切さ」を刻みました。
それでは、ハッブル宇宙望遠鏡に関する偉大な「成果」と、数多くの「苦難」について見ていきましょう。
偉大な成果の数々
ハッブル宇宙望遠鏡は、地球の周回軌道上に打ち上げられた宇宙望遠鏡の中でも、最も偉大だと言われています。
この偉大さの理由は、これから紹介する数多くの重要な新発見に裏付けられています。
木星へのシューメーカー・レヴィ第9彗星衝突を克明に捉える
ハッブル宇宙望遠鏡によって撮影されたシューメーカー・レヴィ第9彗星
1994年に、ハッブル宇宙望遠鏡はシューメーカー・レヴィ第9彗星が木星に衝突する様子を克明に捉えました。
彗星が惑星に捕獲されるのを観測したのは、これが世界初のことでした。
シューメーカー・レヴィ第9彗星は、木星へ接近した際にロッシュ限界(主星の重力に砕かれずに近付ける限界距離)を突破し、21個以上に砕けました。
これらのシューメーカ・レヴィ第9彗星の破片は、1994年の7月16から7月22日にかけて木星に衝突しました。
ハッブル宇宙望遠鏡は、分裂したシューメーカー・第9彗星を撮影したほか、木星に残った巨大衝突痕をはっきりと捉えました。
ハッブル宇宙望遠鏡により撮影された木星のシューメーカー・レヴィ第9彗星の衝突痕
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ハッブル・ディープ・フィールドの撮影
ハッブル宇宙望遠鏡が撮影したハッブル・ディープ・フィールド
ハッブル宇宙望遠鏡の広視野惑星カメラを用いて、1995年12月18日から12月28日までの10日間で、おおくま座のほとんど星が見えない領域を撮影しました。
すると、何も見えていなかった領域に、1500~2000個にも及ぶ大量の銀河が写っていました。
この領域は「ディープ・ハッブル・フィールド」と名付けられ、当時の天文学者たちの予想をはるかに上回る宇宙のスケールを示していました。
大量の銀河の撮影は、銀河の赤方偏移の発見のきっかけとなり、後述する「宇宙の膨張の発見」にも繋がります。
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宇宙の膨張を発見
画像:NASA, ESA, A. Feild (STScI), and A. Riess (STScI/JHU)
ハッブル宇宙望遠鏡は、観測の過程で遠くに位置する銀河や超新星ほど、速く遠ざかっていることを発見しました。
これは宇宙が膨張していることを示しており、宇宙の起源説である「インフレーション理論」や「ビッグバン」に通ずる手がかりとなります。
銀河や超新星が放つ光の波長は、地球から遠ざかる速度がほど長くなり、見た目は赤くなっていきます。
遥か彼方の天体から放たれる光の波長を観察することで、地球からの距離や、どのくらいの速度で遠ざかっているのかがわかります。
画像:NASA and J. Blakeslee (JHU)
1995年(左)と2002年(右)にハッブル宇宙望遠鏡によって撮影された画像
2002年の方が赤くなっている超新星がある
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太陽系外の惑星を発見
画像:NASA, ESA and P. Kalas (University of California, Berkeley, USA)
2004年、アメリカのカルフォルニア大学のPaul Kalas氏が率いるチームがハッブル宇宙望遠鏡を使用し、みなみのうお座に属する恒星フォーマルハウトの周囲に惑星を発見しました。
太陽系以外の惑星を可視光で撮影したのは、これが世界初でした。
第二の地球や地球外生命を探索するうえで、太陽系以外の恒星系の惑星の発見や分析が非常に重要になってきます。
何事もパイオニアは偉大です(◎_◎)
2004年のハッブル宇宙望遠鏡の発見を皮切りに、次々と太陽系外惑星が発見され、その数は現在(2018/10/19)で3,869個にものぼります。
銀河系を渦巻く暗黒物質(ダークマター)の存在を明らかにする
銀河団Abell 1689に属する銀河の像が重力レンズ効果によって円弧状に引き延ばされている
2007年に、日米欧国際研究チームが、ハッブル宇宙望遠鏡を使用して、暗黒物質(ダークマター)影響による重力レンズ効果を確認したと発表しました。
「暗黒物質(ダークマター)」とか「重力レンズ効果」とか何やらよくわからない単語が出てきましたね。
まず、暗黒物質(ダークマター)とは、「質量は持つが、光学的に直接観測できない」とされている仮説上の物質です。
宇宙全体の質量を計算すると、現在人類が確認できる物質だけでは到底足りないため、暗黒物質(ダークマター)の存在が仮定されたのです。
質量を持つ物質の周囲の時空には歪みが生じ、この空間を通過する際には光ですら直進できずに進行方向を変えられてしまいます。
理論上は、暗黒物質(ダークマター)の周囲にも例外なく時空の歪みが生じているはずです。
ハッブル宇宙望遠鏡は、この暗黒物質(ダークマター)により、遠方の銀河の像が歪められる「重力レンズ効果」を実際に観測し、それまで仮説上の物質であった暗黒物質(ダークマター)の存在を明らかにしました。
暗黒物質(ダークマター)に関しては未だによくわかっていないことが多いのですが、その存在が証明されたことにより、今後更に活発に研究が行われ、いずれは全ての謎が解明されることが期待されています。
重力レンズ効果のイメージ
美しい宇宙の姿を撮り続けた
これまでハッブル宇宙望遠鏡の成果による学術論文は10000稿を超えています。
無数の科学的功績を残しているハッブル宇宙望遠鏡ですが、何よりもこれまで人類が見たことも無い「美しい宇宙の姿」を我々に見せてくれたのが一番の功績ではないでしょうか。
これまでハッブル宇宙望遠鏡が撮り続けた宇宙の芸術作品をいくつか見ていきましょう。
オメガ星雲(M17, Omega Nebula)
オメガ星雲は、いて座に位置する可視光で観察できる星雲で、非常に明るく壮大な姿をハッブル宇宙望遠鏡が撮影しました。
コーン星雲(HV.27 Cone Nebula)
いっかくじゅう座の方向にある星雲で、名前の由来は円錐(Cone)です。
棒渦巻銀河 NGC 4302 と NGC 4298
画像:NASA, ESA, and the Hubble Heritage Team (STScI/AURA)
NGC 4302 と NGC 4298 の銀河ペアで、二つの銀河は構造が非常に似ているにも関わらずアングルの違いにより全く違う形に見えます。
網状星雲(Veil Nebula)
画像:NASA, ESA, and the Hubble Heritage Team (STScI/AURA)
網状星雲ははくちょう座の方向に見える星雲で、超新星爆発の残骸が毎秒100kmで広がっている姿が地球からはカラフルで非常に美しく見えます。
創造の柱(Pillars of Creation)
画像:NASA, ESA, and the Hubble Heritage Team (STScI/AURA)
こちらはハッブル宇宙望遠鏡が撮影した写真の中でも有名な「創造の柱」です。
「創造の柱」は、へび座の方向にあり、正式には「わし星雲」と呼ばれています。
「創造の柱」には、星の素となるガスや物質が豊富に存在しており、太陽よりも重い星が頻繁に誕生する、”星の創造現場”として知られています。
ハッブル宇宙望遠鏡 25年の軌跡 (小学館クリエイティブ単行本)
試練の数々
1990年に、打ち上げられて以来、輝かしい功績の数々を残してきたハッブル宇宙望遠鏡ですが、常に順調に運用されていたわけはありません。
実は、打ち上げ当初は天体の光を集めるという重要な役割をはたす鏡の端が設計に対し、0.002mm平たく歪んでいた影響で望遠鏡の分解能は予定の5%しか発揮できていなかったのです。
たった0.002mmのズレで性能95%減、という宇宙望遠鏡のデリケートさにも驚きですが、技術者たちも黙ってはいませんでした。
まずは、焦点に入ってくる光を最大限に利用できるよう新たなソフトウェアを開発し、性能を58%にまで引き上げました。
次に、スペースシャトルで宇宙飛行士を派遣し現地で直接ハッブル宇宙望遠鏡の修理を実施しました。
この修理のために、宇宙飛行士たちは一年間で延べ400時間にも及ぶ訓練を受けました。
その甲斐あり、ハッブル宇宙望遠鏡の修理は大成功し、予定していた以上の性能を手に入れ数々の歴史的発見をすることになったのです。
まさに怪我の功名。
人類はハッブル宇宙望遠鏡の修理ミッションという逆境をバネに、確かに成長したのです。
この「決して諦めない」精神は、天文分野に関わらず様々なフィールドで大切になってくるものであり、ハッブル宇宙望遠鏡はその軌跡をもってそれを我々人類に教えてくれたと言っていいでしょう。
ありがとう!ハッブル宇宙望遠鏡(*’▽’)!
引退間近
1990年から、28年以上に渡り「人類の目」として活躍してきたハッブル宇宙望遠鏡ですが、2021年に運用終了予定となっており引退の時期が間近に迫っています。
これまでの天文科学分野への多大な貢献や美しい天体写真の数々を想うと非常に寂しくはありますが、機械的寿命を考えると仕方ありません。
ハッブル宇宙望遠鏡の引退の際には、只々「お疲れ様でした。いままでありがとう!」と伝えたいですね。
後継機「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」
画像:NASA/Northrop Grumman
運用終了が間近に迫っているハッブル宇宙望遠鏡ですが、NASAを中心として後継機の「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」の開発が進んでいます。
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、ハッブル宇宙望遠鏡よりもはるかに大きな主鏡(6.5メートル)を備えており、格段に高性能になっています。
さらに、ハッブル宇宙望遠鏡のように地球の周回軌道に乗せるのではなく、地球近傍の塵などの影響を避けられる「地球から見て太陽の反対側150万キロ」の位置を飛行させることで、より好条件での観測を予定しています。
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の打ち上げ予定日は2021年3月30日で、今後はハッブル宇宙望遠鏡に代わり、活躍をすることを期待されています。
私も今から、ジェイムズ・ウェッブ望遠鏡の先代以上の活躍を楽しみにしています(*’▽’)。
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まとめ
さてさて、今回は数々の偉大な功績を残した『ハッブル宇宙望遠鏡』について紹介して参りましたがいかがでしたか?
ハッブル宇宙望遠鏡が我々にもたらした「天文学的功績」や「美しい宇宙の姿」、「諦めないことの大切さ」は後世に受け継がれ永遠に残るでしょう。
これらのハッブル宇宙望遠鏡のもたらしたものが、今後の人類の発展に繋がっていけばいいですね(*´▽`*)
ではでは、次回の宇宙情報も乞うご期待!